龍船節(ドラゴンボートフェスティバル)の起源
長くてカラフルなドラゴンボートの激しい競漕の祭りを耳にしたことのある人もいるかもしれません。陰暦の5月5日の端午節に行われます。2020年は6月25日でした。
この祭りの起源は2300年前。なぜ龍と競漕が関わるのでしょうか?
忠実な大臣
龍船節の起源にはいくつかの説がありますが、共通点もあります。主な説には4世紀に楚に仕えた政治家・詩人の屈原が関わっています。
屈原は楚と隣国の斉との関係を復興しようと奔走しました。時は戦国時代。秦の始皇帝が国家を統一するまで、7つの王国が200年間激しく争い続けていた時代でした。
楚の国王は隣国との繊細な関係を崩してしまいましたが、屈原は斉との国交を復興し、一時的に国は平穏になりました。
しかし、楚の宮廷は腐敗しており、欲深な大臣たちが敵から賄賂を受け取っていました。誠実な屈原は、はめられ、国を追放されることとなります。
惟夫黨人之愉樂兮 惟(ただ)それ黨人の愉樂する
路幽昧以險隘 路幽昧にして以て險隘(けんあい)なり
君主側の悪党たちは逸楽をむさぼる
その行く末は奥深く暗く、険しく狭い
この詩は屈原による『離騒』の一節です。国を追われた状況を描いた長編の自叙伝詩です。さらに続きます。
全不察餘之中情兮 全(せん)餘の中情を察せず
反信讒而斉怒 反って讒を信じて斉怒す
王はそんな私の心情を理解せず
かえって悪党の讒言(ざんげん)を信じ、王は激怒された
国王に揚子江の南へと追放された屈原は、詩を詠み、絶望の気持ちを見つめていきました。
国王に裏切られても変わらぬ忠誠心が詠まれています。
指九天以為正兮 九天を指して以て、正と為す
夫唯靈脩之故也 それ唯 靈脩(王)の故なり
九天を見れば何が正しいかは明確だ
ただ王を思ってしたことなのだ
忠誠心と能力のある大臣を失い、楚はまもなく秦に敗北しました。この知らせに異郷の地で屈原の心は深く傷つきます。
餘既不難夫離別兮 餘、既にその離別を難(はばか)らず
傷靈脩之數化 靈脩(王)が數(しばしば)化わるを傷(いた)む
私は、王に見捨てられることを、はばかりはしないが、
王がしばしば豹変されることを、王のために悲しむのだ
屈原は絶望のどん底に陥り、汨羅(べきら)という川に身を投げます。地元の人々がこれを知り屈原を救おうと、木舟を出して、太鼓をたたき、櫂(かい)で激しく水をかき分けながら、邪霊と魚を跳ね除けて探し回りました。
屈原を見つけることができなかった地元の人々は、もち米で作ったおにぎりを川に投げ込みました。中国の古代思想では、自殺をはかったものは、もともと按配されていた地上での一生の道のりが終わるまでの期間、喉の渇きと飢えに苦しむと言われているため、屈原の霊を供養するためでした。また、水にもち米を投げ込むことで、魚が屈原の体をついばまないようにするという意図もありました。
伝説によると、ある晩、屈原は漁師の夢に現れ「もち米は龍に食べられてしまい、食べることができない。よもぎの葉で米を三角形にくるんで、5本の明るい色の紐で縛って欲しい。そうすれば龍を退けることができ、もち米を食べることができる」と告げました。
これが、旧暦の5月5日に行われるドラゴンボートの競漕と、この祭りで食べる「ちまき」の由来です。
これは一説に過ぎません。屈原の入水自殺のところまでは、ほぼ一致していますが、その後の説は様々です。なぜ龍が出てくるのかについて他の説を見てみましょう。
龍の崇拝
別に、龍の崇拝説があります。当時の人々には龍を崇拝する慣習がありました。
龍王は、雨をもたらしますが、大洪水ももたらすので、人々は怒らせないように気を配っていました。穀物、生活、安全の全てかかっていたからです。
龍王をなだめるために、揚子江で龍船の競漕が行われていました。進水前に龍王に奉じる儀式を経てから、龍で装飾された船でスピードを競い合いました。
現在のドラゴンボートがなぜこれほど龍の装飾に凝っているのか説明がつきます。口を開け、目玉が飛び出している龍頭が船首を、鱗で覆われた龍尾が船尾を飾ります。
ドラゴンボートの競漕
信じがたい話ですが、文化大革命(1966~1976年)の時期、毛沢東による伝統文化の撲滅闘争の一貫としてドラゴンボートの競漕は禁じられました。幸い、毛沢東の死去から数年後、皆に親しまれたこの祭りは復興し、今日まで続いています(ただし、2020年のイベントは中共ウイルス[COVID-19]のため、キャンセルが出たかもしれません)。
船の長さは様々ですが、通常は20人の漕手が座れる大きさです。「龍の心臓の鼓動」を打つ、欠かすことのできない太鼓叩きが1人乗り込みます。太鼓のリズムに乗って櫂を漕ぐペースが速まり、盛り上がりのあるエネルギッシュなゴールとなります。
ドラゴンボートの競漕は、ビジネスマンや学生のチーム作りのための養成にも利用されています。世界中で行われており、楽しいボート漕ぎから、真剣な競合まで、実に様々です。
ボートレースが始まる前に、長年の伝統として、龍に目を入れて龍船に生命を与えます。ぜひ、神韻ダンサー、ベティー・ワンのブログ“「画龍点睛」(がりょうてんせい)” をお読みください。このことわざの背後にある伝説を取り上げています。
ちまきを食べながら、龍に思いを馳せてみませんか? 龍の中には、善い龍、悪い龍だけでなく、その中間の龍もいます。
龍に関しては、「中国神話の登場人物:龍王」と「東洋の龍について知られざる9つの事実知られざる’9つの事実」をお読みください。